火狩りの王

作者コメント

◆「火狩りの王」を書きはじめたきっかけを教えてください。

作品の「種」のようなものは十代のころからあって、そのころ好きでよく読んでいたケルト神話や妖精物語に登場する、三日月の金の鎌を手に、主人公がなにか大きなものを追い求めるお話を書きたい……と漠然と考えていました。
そして、これまで「雨」のお話をたくさん書いていたので、その逆のモチーフである「火」を書いてみよう、と書きはじめたら……「火」を際立たせるための暗闇も、また濃い世界になりました。

◆「火狩りの王」のキャラクターを描くときに、大切にしていることはなんですか。

「悪役」を作らないように、と気をつけています。「この人さえやっつければ解決できる」という状況は、現実にはないし、フィクションの中でもそういった筋書きはもう通用しなくなってゆく傾向を感じます。それぞれが、「こうするのがいいはずだ」と思って行動した結果、さまざまなことがもつれてゆく。
主人公たちは、腕力も権力もない弱い子どもですが、だからこそそういった、どうしようもないもつれを真正面から目撃し、あるいは受け入れ、あるいは反発して行動できるのではないか……と。秘めた力も、隠された出自も持たない普通の子どもたちが、大きすぎる世界を前に一生懸命にものを思い、動きまわる。そのすがたを描きたい、私自身も目撃してみたい、という気持ちです。

◆読者へのメッセージ

作品と読み手とのあいだに交わされるものは、作者の手のおよばないところにあると思っているので、とくに「伝えたいこと」というものはありません。
一つ一つのイメージをつないで、登場人物たちの言葉や思いを拾って、書きつらねています。そこからなにかの手ざわりやにおいを感じていただけるように、と。ここではない世界から拾ってきた記録を、一枚ずつの手紙にしたため、重ねていっているような気持ちです。
もしこの物語のかけらでも、読んでくださった方の記憶に残ることがあれば、そしてそれがもし、なにかの支えになることができれば、このうえもなく光栄なことです。それが叶うよう、ひと文字ずつを綴ってゆこうと思っています。

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